訴訟代理権を弁護士以外にも

全国青年社会保険労務士連絡協議会

常任理事 寺田知佳子
                                                    
 21世紀の司法制度のあり方を考えてきた司法制度改革審議会は十一月、中間報告を発表した。法曹界の人的基盤の拡充、制度的基盤の整備、国民の司法参加等多岐にわたる。具体的には弁護士の合格者数を現在の年間1,000人から一挙に3,000人にする、ロースクールの設置、陪審・参審制度による一般の国民と裁判官との協働等が主な論点だ。また報告書の「論点整理」において、弁護士と隣接法律専門職種との関係についても触れられており「法の担い手として、法曹だけでなく、隣接法律専門職種等も視野に入れつつ、総合的に人的基盤の強化について検討する必要がある」と指摘している。この隣接法律専門職の活用について考察を試みたい。
  隣接法律専門職とは、労働社会保険諸法令に関しては社会保険労務士、登記に関しては司法書士、また税務に対しては税理士といったように国家資格を持つ者がその専門とする法分野に関して国民からの依頼を受け、良質な法的知識を提供することにより業を行うものである。近年社会保険労務士の分野においては、リストラ、労働災害、セクハラや過労死、そして年金の裁定や健康保険の給付に関することなど、この分野に起因した紛争が増加増加の一途である。
 現に、東京簡易裁判所における1998年の少額訴訟の新受件数1417件のうち13.3%に当たる200件弱が労働社会保険関係事件であったといわれ、全国では少なからずの労働社会保険関係事件があるものと推察される。しかしながら今は、弁護士法第72条の存在により弁護士以外の隣接士業者は、業として法律事務を取り扱うことが制限されているためこれらのケアができず、国民の権利擁護の部分で大きな弊害を来しているのが実態である。
 そこで各士業は司法改革審議会に同法の規制を緩和し、簡易裁判所の訴訟代理権を付与してほしい、との強い要望を提出している次第だ。
 簡裁の訴訟は本人が行うのが建前であって、弁護士はこの代理をなかなかやりたがらない。その理由は、主に弁護士の報酬は訴訟額によって決まるためであり、少額の訴訟を弁護士は避ける傾向にあるからだと思う。裁判を起こすのは、自分か弁護士に依頼するかの二者択一でしかないので、本人訴訟が9割以上を占めており、簡裁事件におけるこのデーターの数倍かの法律事件が、専門家の判断を受けずに放置されていると思われる。
 司法改革審議会で提案されているように弁護士の数が増えるといっても、毎年3,000人増えて10年後に現在活躍中の弁護士を加えても4万7千人であり、国民2,600人程に1人の割合でしかない。欧米の国民700人に1人とか900人に1人といったサポート体制には遠く及ばない。加えて弁護士とて一人の人間が扱う法律の数には限界があるため、我々は彼らにオールラウンドプレイを期待してはいけない。それこそ要所要所に、法律専門職を活用すべきだ。
 隣接士業者は、訴訟追行能力が不足しているとされ、厳格な資格試験や弁護士と同等の研修履修がその代理権付与の担保として議論されている。しかし、簡裁の設置目的は、本来「簡易な手続きにより迅速に紛争を解決する(民事訴訟法第270条)」である。本人訴訟が原則で、かつ、弁護士の受任が少ない訴訟代理に、高いハードルはそぐわない。
 仮に隣接士業者へ簡裁の訴訟代理権が付与されたならば、国民は法律相談相手の選択肢が増える。裁判所においても、それまで書記官が行っていた、素人相手の調書作成指導などが省力化される。最初は裁判に不慣れであったとしても、法律専門職たる隣接士業は、本人が訴えたい事案の根拠法令に関してはプロであり、本人の主張を引き出し、争点を浮き彫りにするところまでは完ぺきに行えるからだ。
 規制改革のうねりの中、目先の心配にとらわれず制度が機能した後までを視野に含め、総体的にその是非を判断したい。それゆえ隣接士業の有効活用を、真剣に考えていきたいものである。(投稿)